医療現場で働くということ(仮タイトル)
起
1月中旬。東京都港区のオフィスは移転したばかりで、筆者が取材をしていると観葉植物が届いた。
武藤さんはわずかに動く首を振って、配達人に会釈した。手元のレバーを指で操作して車いすを方向転換し、大きな絵が掛けられた部屋の隅に視線をやると、スタッフに指示した。「こっちに、運んでもらうよう、伝えてください」。かすれた声でゆっくりと、一語一語を絞り出す。
床
武藤さんは2019年2月に気管切開手術を受けた。肺に空気を送ったり、痰を吸引したりするために、のどぼとけの下を切開して気管に穴をあける。ALSは症状が進むと呼吸に必要な筋肉が動かせなくなる。気管切開をして気道を確保しておかないと、やがて呼吸困難に陥る。発話も難しくなるため、スピーチカニューレという空気の流れを調節する器具を装着していた。
取材の6日後に「喉頭気管分離術」という新たな手術が予定されていた。食べ物の通り道と空気の通り道を分離する手術である。
この手術を受けると、空気が声帯を通らなくなる。つまり、今度こそ完全に声を失う。武藤さんは心境をこう語った。
転
1月中旬。東京都港区のオフィスは移転したばかりで、筆者が取材をしていると観葉植物が届いた。
藤さんはわずかに動く首を振って、配達人に会釈した。手元のレバーを指で操作して車いすを方向転換し、大きな絵が掛けられた部屋の隅に視線をやると、スタッフに指示した。「こっちに、運んでもらうよう、伝えてください」。かすれた声でゆっくりと、一語一語を絞り出す。
結
武藤さんは2019年2月に気管切開手術を受けた。肺に空気を送ったり、痰を吸引したりするために、のどぼとけの下を切開して気管に穴をあける。ALSは症状が進むと呼吸に必要な筋肉が動かせなくなる。気管切開をして気道を確保しておかないと、やがて呼吸困難に陥る。発話も難しくなるため、スピーチカニューレという空気の流れを調節する器具を装着していた。
取材の6日後に「喉頭気管分離術」という新たな手術が予定されていた。食べ物の通り道と空気の通り道を分離する手術である。
この手術を受けると、空気が声帯を通らなくなる。つまり、今度こそ完全に声を失う。武藤さんは心境をこう語った。
ありがとう」「うれしいよ」「これ、面白いね」。あらゆる感情をその人の体温とともに伝えるのが声である。気管切開手術のあとの「自分の意思が伝わらないもどかしさ、つらさは、想像以上だった」と武藤さんは言う。妻の木綿子さん(36)は、家族としての心情をこう吐露する。
「症状が進むと行動が制限されていき、2人で出かけたりすることもできなくなります。そうするとより一層、声を使ってコミュニケーションを取ることの重みが増していくんです。冗談を言い合ったりとか。そんな何げないやり取りまでなくなっちゃうの?と、いたたまれない気持ちになってしまうんですよね」
スピーチカニューレのバルブをはめて、最初の声を聞いた瞬間、木綿子さんはうれしくて思わず涙を流した。武藤さんはそ様子を見て思いを新たにした。
「身近な人の声が聞けないのはこんなにもショックなことなんだと。声は自分だけのものじゃないんだと分かりました」